第2回 相続税の税額控除について(2)『相続税の配偶者控除』

 超高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税。

 ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。

 それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

 これまでにも何回か、相続税については解説をしてきましたが、今回は納付税額の計算過程のほぼ最後に位置する、6つの税額控除項目について書かせていただいております。

 第2回は、税額控除項目の2つ目、配偶者控除についてご説明いたします。

<1> 規定の背景

 配偶者控除は正確には、「配偶者に対する相続税額の軽減」といいますが、亡くなった被相続人の配偶者が相続または遺贈により取得した財産に対し、その課せられる税額の一部または全額を控除する規定になります。

 この規定が生まれた背景は、概ね3つあると言われています。

1)財産形成への寄与

 まず、被相続人の財産は配偶者と夫婦協力して形成してきたものだという考えです。

法律上の婚姻関係があったとしても、夫婦はあくまで別人ですので、夫が所有する財産は夫のみに、妻が所有する財産は妻のみに帰属します。

 このことは、民法に明確に定められています。

<夫婦間における財産の帰属>

1 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。

2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

(民法第762条)

 しかし、家事・育児の負担その他の協力関係を踏まえれば夫や妻の財産はお互いに協力し合い、形成されたものと考えられるのに、その寄与を無視するのか、という批判や不満が、ここから生じます。

 そこで、夫婦間で生じる相続等による財産の移転については、特別な手当てを設けることで、それに対処しようというのです。

2)生活保障

2つ目に、被相続人の遺した財産は、配偶者のその後の生活の維持にとって、必要性が高いと思われることが挙げられます。

 例えば夫婦が住んでいた住宅、生活費に使っていた預金など、配偶者が死亡した後の、残された配偶者が安定した生活を送る為には、一定の財産が引き継がれることが必要だと考えられます。

 そのような観点から、被相続人の配偶者には、特別な控除が設けられた、というわけです。

3)同一世代間

 年齢差の大きなケースも存在しますから一概には言えませんが、一般論としては、夫婦であれば、その年齢はそんなに変わらない、つまり夫と妻が同一世代もしくは近似世代であることが想定されます。

 ということは、例えば夫が亡くなったことで相続が発生し、相続税が課税されてから、妻も亡くなって相続が発生するまで、そんなに年数がかからないこともあるでしょう。

 最初の相続(一次相続)において相続等で財産を取得した者が、それから短い期間で亡くなって相続(二次相続)が発生した場合には、第4回で説明する予定の「相似相続控除」という規定が別に存在しています。

しかし、配偶者間の相続に関しては、それだけではカバーしきれない部分もあると考えられ、そこに配慮する必要もあるだろうということで、相似相続とは別に配偶者控除が設けられたというものです。

 人によってはこれら3つの背景のうち、最後の「同一世代間の財産移動であること」を含めないで説明をされていたりもしますが、ここでは「配偶者に対する相続税額の軽減」の背景とされているものの全てを簡単にご説明させていただきました。

<2> 配偶者控除の内容

 相続税における6つの税額控除の中で、配偶者控除だけは他とは少し異なった既定の立て付けとなっています。

 まずは、少し長いのですが、その条文を確認してみましょう。

(配偶者に対する相続税額の軽減)

 被相続人の配偶者が当該被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、当該配偶者については、第1号に掲げる金額から第2号に掲げる金額を控除した残額があるときは、当該残額をもつてその納付すべき相続税額とし、第1号に掲げる金額が第二号に掲げる金額以下であるときは、その納付すべき相続税額は、ないものとする。

一 当該配偶者につき第15条から第17条まで及び前条の規定により算出した金額

二 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の総額に、次に掲げる金額のうちいずれか少ない金額が当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出した金額

イ 当該相続又は遺贈により財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額に民法第900条(法定相続分)の規定による当該配偶者の相続分(中略)を乗じて算出した金額(中略)に相当する金額(当該金額が1億6千万円に満たない場合には、1億6千万円)

ロ 当該相続又は遺贈により財産を取得した配偶者に係る相続税の課税価格に相当する金額

(相続税法第19条の2第1項)

 第1号に書かれている「第15条から第17条まで及び前条の規定」ですが、第15条は「遺産に関わる基礎控除」、第16条は「相続税の総額」、第17条は「各相続人等の相続税額」を規定しています。つまり、配偶者が負担すべき相続税額を一旦算出するまで、第1回で書いた「税額計算の流れ」における、④税額控除 の前段階部分の規定になります。「前条の規定」は、第1回で説明した「贈与税額控除」であり、つまり税額控除の各規定を利用していくにあたっての適用の順番を定めているものになります(基本的に、条文番号の若い順に適用していくものと思っていただいて結構です)。

 第1号に書かれた、「贈与税額控除」までの規定を適用させた金額から、さらに差し引く額を定めた第2号が、この規定のキモになる部分です。

 ここを理解するには、まず、「法定相続分」について説明をしなければなりません。上記条文中にも上がっている、民法の規定を確認してみましょう。

<法定相続分>

 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。

二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。

三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。

四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

(民法第900条)

 ここに定められているように、相続財産に対して被相続人の配偶者が持っている権利は、他の法定相続人が被相続人の子(と、その代襲相続人)の場合は1/2、両親や祖父母などの直系尊属である場合は2/3、兄弟姉妹(と甥・姪)の場合は3/4になります。

 そのうえで、配偶者控除で差し引けるのは、「被相続人の所有財産に対して課せられる相続税の総額」に、「課税価額の合計額のうちに次の2つのうちいずれか小さい金額が占める割合」を乗じた金額であるとされています。

 (1) 相続税の課税価格の総額に、その配偶者の法定相続分を乗じた金額

  (その金額が1億6千万円以下であるときは、1億6千万円)

 (2) 相続人である配偶者が相続等により取得する財産の課税価格

 条文の立て付けに応じて書いたので分かりにくいところもあるでしょうから、分かりやすく言い換えましょう。

 要するに、配偶者が相続または遺贈により取得することになった財産に対しては、① 1億6千万円に達するまでであれば相続税はかからない、② 1億6千万を超えた部分についても、それが「相続税の課税価格の合計額×配偶者の法定相続分」である金額を超えるまでは、相続税はかからない、ということになるのです。

 ケースバイケースなので絶対とは言い切れませんが、1億6千万円までは税がかからないというのは、かなりの特典であると言えるでしょう。

 ですので、相続税の資産や検討においては、税務面の有利さを追求する観点から言えば、これを最大限生かすことを考えることになります。

その一方で、相続等により財産を取得した配偶者が亡くなって、子供達がその財産を相続するという二次相続の段階では「配偶者控除」の適用は無くなるわけで、その点も十分に考えて、総合的に税負担が少なくなる形を選ぶのが望ましいと言えるでしょう(つまり、場合によっては最初の相続時に「配偶者控除」の利用を抑える選択肢も出てきます)。

ここの判断はなかなか難しいので、皆さんは、できれば一人で考えずに、税理士などの専門家に相談されることをお勧めいたします。

<3> 適用要件

 なお、それはそうだろうなと感じていただけるかと思いますが、このような大きな税額控除を受けるには、当然ですが、いくつかの要件を満たす必要があります。

 第2回の最後は、その点について触れておきましょう。

1)法律上の配偶者であること

 本規定の適用対象となる「配偶者」は、法的な「配偶者」、つまり正式な婚姻関係にある者でなければなりません。

 内縁関係などの場合には、適用を受けることはできないのです。

 ただし、その婚姻期間には、特に制限が設けられていません。1年前に結婚した者でも、20年前に結婚した者でも、等しく適用を受けられます。

 これを悪用して、例えば亡くなる前日に籍を入れればいいのではないかとおっしゃる人もいるかもしれません。

しかし、明らかに税逃れの目的で亡くなる直前に行われた入籍については仮装隠蔽による脱税行為と認定され、重加算税の対象にもなりかねないことになるでしょうから、そのようなおかしな抜け道は考えてはいけません。

2)申告書を提出すること

本規定の適用を受けようとする納税者は、相続税の申告書を提出しなければなりません。

相続税法の規定上、相続財産の総額が、相続税の基礎控除額以下である等で特に何の特例も適用させなくても税額が発生しない場合は、最初から申告書の提出が不要とされていますが、仮に「配偶者控除」の適用をした結果、納税額が0円になるような場合には申告不要には該当しません。

これは、特例を使って納付税額が0円になるのであれば、「その特例の適用を受けることを選択した」ことを税務署に対して申告しなければいけない、ということだと理解していただければいいでしょう。

3)申告期限までに遺産分割が完了していること

 配偶者が確かに取得するということが決まっていない財産については、この規定の適用は受けられません。

 では、申告書の提出期限において、まだ遺産分割協議がまとまっていない場合はどうするのかというと、いったん、法定相続分で分割が行われた形での仮申告を行うと同時に、「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出することになります。

 この書類を出しておくことで、申告書の提出期限から3年以内であれば、分割協議が固まった時点で再度申告書を提出することで、本規定の適用を受けることが可能です(ただし、この場合、最初の仮申告の時点では「配偶者控除」を未適用としておかなければなりません)。

以上、少し駆け足ですが、「配偶者に対する相続税額の軽減」に関する概要説明でした。

次回は税額控除の3番目と4番目、「未成年者控除」と「障害者控除」について、説明をさせていただきます。

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