第3回 相続税の税額控除について(3)『未成年者控除と障害者控除』

 超高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税。

 ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。

 それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

 そのような趣旨で、相続税の税額控除について書いている今回の記事。

 第3回目の今回は、「未成年者控除」と「障害者控除」について、説明をさせていただきます。

<1> 未成年者控除

 相続または遺贈により財産を取得した法定相続人が未成年であり、一定の要件を満たす場合に適用がある規定です。

 敢えて説明をする必要も無いとは思いますが、念のため、ここでいう「未成年」の定義は、民法第4条の規定(「年齢十八歳をもって、成年とする。」)に従ったものであり、いわゆる「借用概念」になります。

 未成年者である法定相続人が相続または遺贈により財産を取得するケースとなると、(もちろん一概に断定はできませんが)被相続人である父母が、事故や病気などで早くに亡くなってしまったという状況が考えられます。

 未成年といっても既に社会に出て働いているということも考えられなくはないので、これも一概には言えないことではありますけれども、一般に、未成年がそういった形で親を亡くした場合、遺された未成年には、これからまだまだ教育費や養育費がかかることが想定されます。

 そのような未成年に対し、経済的な負担を少しでも軽減できるようにして、生活を安定化させよう、サポートしようという趣旨で、未成年者控除の規定は設けられました。

 条文を確認してみましょう。

<未成年者控除>

 相続又は遺贈により財産を取得した者(中略)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の民法第5編第2章(相続人)の規定による相続人(相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人)に該当し、かつ、18歳未満の者である場合においては、その者については、第15条から前条までの規定により算出した金額から10万円にその者が18歳に達するまでの年数(当該年数が1年未満であるとき、又はこれに1年未満の端数があるときは、これを1年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。

(相続税法第19条の3第1項)

 この条文の解釈は、難しくないでしょう。

 相続が発生した日、つまり被相続人が亡くなった日において18歳未満だった法定相続人(民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人)については、その相続開始の日からその者が18歳に達するまでの年数×10万円を、その者が納めなければならない相続税から差し引くことができるのです。

 ただ、冒頭に「一定の要件を満たす場合」と書いたように、この特例は未成年者である法定相続人であれば無制限に受けられる、というわけではありません。

 具体的には、その者が次のいずれかに該当する必要があります。

① 財産を取得した時に日本国内に住所があること(一時居住者で、かつ、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人である場合を除きます。)

② 財産を取得した時に日本国内に住所が無い場合は、次のいずれかに該当すること

   イ 日本国籍を持ち、相続開始前10年内に日本国内に住所があった者

   ロ 上記以外の日本国籍を持つ者で、被相続人が外国人被相続人または非居住被相続人以外の場合

   ハ 日本国籍の無い者で、相続人が外国人被相続人または非居住被相続人以外の場合

 要するに、相続税の納税義務者の区分のうち、「無制限納税義務者」に該当することが求められていると思っていただいていいのですが、少し複雑な話でもあるので、ここは規定の内容を細かく正確に理解するというよりは、「日本との関係性が深くない者に対しては、未成年者控除の適用は認められていない」という程度の認識をしていただければいいでしょう。

個別のケースについて、適用の可否を知りたい場合は、各税務署や税理士等にお問い合わせください。

なお、(この規定の適用がある)未成年者である法定相続人の税額から控除額を差し引いて、なお引ききれない金額があった場合は、その金額を、その者の扶養義務者の税額から差し引くことができます。

 また、過去に他の被相続人からの相続等に関して未成年者控除の適用を受けたことがある場合は、本人及び扶養義務者の税額から既に差し引かれた部分について、税額控除の制限を受けることになります(前回の相続の時点で控除しきれなかった残高があった場合に、その残高が控除されます)。

 以下に、その場合の計算方法を示しておきます。

(1) 10万円×(20歳-今回の年齢)

(2) 10万円×(20歳-前回の年齢)-既控除額

 (3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

<2> 障害者控除

 基本的な考え方は、「未成年者控除」と同じです。

 相続・遺贈により財産を取得した者が障害者であった場合、そうではない健常者と比べ、就業収入面の不利や、生活費が余計にかかるなどの不利を負うことになります。

 この不利に対し、相続税の計算過程において特別な税額控除を設定する事で手元に残る財産の額を増やし、以って政策上の配慮をしようというのが、「障害者控除」です。

1)既定の背景

 なお、「未成年者控除」が、その相続人等が成人に達するまでの間の適用だったのに対し、「障害者控除」は85歳に達するまでとなっています。

 基本的には、その障害者である相続人等の亡くなるまでの生活費等を税額控除で補助することができれば、制度の目的は満たせます。しかし、相続が発生した時点で、相続人等の余命が正確に把握するのは不可能です。

 そこで、相続税では日本人男女の平均寿命に近いところで切りの良い数字ということで、85歳という基準を設定しています。

 ちなみに、現時点における日本の平均寿命は、昨年末に厚生労働省が発表した「令和2年都道府県別生命表の概況」によれば、男性で81.49歳、女性が87.60歳となっています(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk20/dl/tdfk20-10.pdf)。

人口比もあるので、男女合わせての平均寿命について、これ等を足して2で割るという単純な計算をするわけにはいきません。

しかし、概ねこの2つの中間よりちょっと上くらいが全体の平均寿命になるだろうとみなすことにすると、「障害者控除」の控除額計算が85歳という年齢を1つの区切りとしていることは、(今後の平均寿命の変動によっては、見直しの必要性も生じるとは思われるものの)現状では、まず妥当なところだと思われます。

2)控除額

 実際の控除額の計算をするにあたっては、その相続人等の負っている障害の程度によって、控除可能な金額が変わってきます。

 具体的には、該当する者が85歳に達するまでの年数に対し、(普通)障害者であれば1年につき10万円、特別障害者であれば20万円が控除可能となるのです。

条文を確認してみましょう。

<障害者控除>

1 相続又は遺贈により財産を取得した者(中略)が当該相続又は遺贈に係る被相続人の前条第一項に規定する相続人に該当し、かつ、障害者である場合には、その者については、第15条から前条までの規定により算出した金額から10万円(その者が特別障害者である場合には、20万円)にその者が85歳に達するまでの年数(当該年数が1年未満であるとき、又はこれに1年未満の端数があるときは、これを1年とする。)を乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。

2 前項に規定する障害者とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者、失明者その他の精神又は身体に障害がある者で政令で定めるものをいい、同項に規定する特別障害者とは、同項の障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある者で政令で定めるものをいう。

(相続税法第19条の4第1項、第2項)

 第1項が控除額を、第2項が(普通)障害者と特別障害者の定義を定めています。

 とはいえ、この文章だけでは、一般障害者と特別障害者の境界をどのように判断すればいいのか、線引きの部分に曖昧さが残りそうです。納税者がそれぞれ行った個別の判断で一般障害者か特別障害者かの判別基準が異なってしまっては、課税の平等が損なわれてしまいます。

 では、そこの定義はどのようになっているのでしょうか。

3)一般障害者・特別障害者の範囲

 相続税法基本通達第19条の4-1及び4-2では、一般障害者と特別障害者の範囲が、それぞれ定められています。

 ここでその通達をそのまま引用してもいいのですが、これは結構長い通達になっているので、若干の要約させていただくことにします。

まず、一般障害者については、次のように定義されています。

<一般障害者の範囲>

① 児童相談所や知的障害者更生施設などで重度であるとされた人以外の知的障害者

② 精神障害者保健福祉手帳で障害等級が2級又は3級とされている者

③ 身体障害者手帳で身体上の障害等級が3級から6級までであるとされている者

④ 戦傷病者手帳に記載されている精神上又は身体上の障害の程度が一定の者(特別障害者に該当する者を除く)

⑤ 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

⑥ 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

 次に、特別障害者の定義です。

<特別障害者の範囲>

① 児童相談所や知的障害者更生施設などで重度であるとされた知的障害者

② 精神障害者保健福祉手帳で障害等級が1級とされている者

③ 身体障害者手帳で身体上の障害等級が1級又は2級であるとされている者

④ 戦傷病者手帳に記載されている精神上又は身体上の障害の程度が恩給法別表第1号表の2の特別項症から第3項症までである者

⑤ ③又は④に該当しない者で原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の規定による厚生労働大臣の認定を受けている者

⑥ 常に就床を要し、複雑な介護を要する者のうち①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

⑦ 精神又は身体に障害のある年齢65歳以上の者で①又は③に準ずる精神又は身体の障害を持つと市町村長又は特別区の区長の認定を受けている者

 こうして書き出したものを読んでも、これはちょっと分かりにくいなと感じられるかと思います。

一般論としてですが、実務的には障害者手帳に記載された等級や、市町村長等の認定の有無で判定をすることになる、と覚えていただければいいでしょう。

 なお、精神障害者保健福祉手帳や身体障害者手帳に記載される等級がどのように判断されるのかも調べたのですが、そこまで書くのはさすがに今回の本題から外れるので、ここでは割愛させていただきます。

 興味のある方は、精神障害者保健福祉手帳については精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健法)の第45条と同法施行令の第6条を、身体障害者手帳については身体障害者福祉法第4条と同条の別表及び身体障害者福祉法施行規則第5条と同条第3項の別表第5号を、それぞれ e-GOV で検索する等して、確認してみてください。

4)その他の注意事項

 障害者控除についても未成年者控除同様、以下の項目の適用があります。

(この規定の適用がある)障害者である法定相続人の税額から控除額を差し引いて、なお引ききれない金額があった場合は、その金額を、その者の扶養義務者の税額から差し引くことができます。

また、過去に他の被相続人からの相続等に関して障害者控除の適用を受けたことがある場合は、本人及び扶養義務者の税額から既に差し引かれた部分について、税額控除の制限を受けることになります(前回の相続の時点で控除しきれなかった残高があった場合に、その残高が控除されます)。

なお、前回の適用から相続発生時までの間に、障害等級の変更があり、一般障害者だった相続人が特別障害者に、又は特別障害者だった相続人が一般障害者になった場合は、それぞれの時点での等級に応じて控除可能額の計算をしていくことになります。

 ここでは、等級に変動が無く、1回目の相続時も2回目の相続時も一般障害者だった場合と、2回目の時には特別障害者に該当することになっていた場合を例にして、計算式を表示してみます。

<障害の程度に変化が無い場合>

(1) 10万円×(85歳-今回の年齢)

(2) 10万円×(85歳-前回の年齢)-既控除額

 (3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

<障害の程度に変化がある場合>

(1) 20万円×(85歳-今回の年齢)

(2) (1)+(10万円×前回から今回までの期間)-既控除額

 (3) 控除可能額:(1)と(2)のうち、小さい方の金額

後者の計算においては、障害の程度の変更は、相続が開始した時に起きたものとみなすのがポイントです。

 次回第4回は、残る2つの税額控除、「相次相続控除」と「外国税額控除」について説明をいたします。

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