第4回 相続税の税額控除について(4)『相次相続控除と外国税額控除』

 超高齢化社会に日本が突入しつつある現状において、大きな注目を集めることになる税目である、相続税。

 ただし、その計算過程はなかなか難しくて、一般の人が「ちょっと自分で申告書を作成してみようか」と簡単に手を出せるものではないかもしれません。

 それでも、基本的な知識として、相続税がどういう税金で、どういう財産が課税対象になり、どのような計算で税額が算出されるのか、その概要を知っておくのは、意味があることでしょう。

 そのような趣旨で、相続税の税額控除について書いている今回の記事。

 最終回となる第4回目の今回は、これまで説明していなかった残る2つの控除項目、「相次相続控除」と「外国税額控除」について、説明をさせていただきます。

<1> 相次相続控除

これまで説明してきた4つの税額控除、「贈与税額控除」「配偶者控除」「未成年者控除」「障害者控除」は、その名前からどういった内容のものなのかが分かりやすかったと思います。

その一方、この「相次相続控除」は、名前を言われてもイメージが湧きにくいのではないでしょうか。

そこで、まずは用語解説的に制度の概要を説明させていただきます。

1)概要

 <相次相続控除>

 相続(被相続人からの相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した場合において、当該相続(以下この条において「第二次相続」という。)に係る被相続人が第二次相続の開始前10年以内に開始した相続(以下この条において「第一次相続」という。)により財産(中略)を取得したことがあるときは、当該被相続人から相続により財産を取得した者については、第15条から前条までの規定により算出した金額から、当該被相続人が第一次相続により取得した財産(中略)につき課せられた相続税額(中略)に相当する金額に次の各号に掲げる割合を順次乗じて算出した金額を控除した金額をもつて、その納付すべき相続税額とする。

(相続税法第20条第1項)

 要するに、相続が発生した時、その相続財産の中に、亡くなった被相続人が死亡前10年以内に相続・遺贈によって取得した財産があった時には、その財産に課せられていた相続税のうち、一定のものを今回の相続に係わる相続税から控除することができる、という規定です。

 これでもまだ分かりにくいでしょうから、簡便化した事例を使って考えてみましょう。

 例えば都内一等地の一戸建にそろそろ金婚式を迎えようかというご夫婦と息子さんが同居されていたところ、お母様がご病気で亡くなられ、それから2年もせずに気落ちされたお父様が後を追うように亡くなってしまうというようなことがありますよね。

 ところで、この戸建住宅はお母様の名義のものであり、お母様が亡くなられた一次相続の時はお父様が、お父様が亡くなられた二次相続の時は息子さんが、それぞれ相続することになりました。

 建物は最近立て直しをしていたのでまだ新しく、土地の評価額も高額で、現金や有価証券など、その他の財産はほとんど無かったものの、それなりの相続税額が発生してしまうケースだったと仮定します。

 この場合、最初にお母様が亡くなられた一次相続のところで相続税が課税された財産について、その財産の取得者がすぐに亡くなって再び二次相続の課税が行われることになります。

 相続税の税額控除に関する記事の第1回でも書いたように、相続税には「富の再分配」と「格差の固定化防止」の機能があるとされています。このケースでは財産の移転が一次相続と二次相続の計2回あったのですから、そこにそれぞれ課税されることは原則的には適切であるとも言えるでしょう。

 しかし、同一の(相続発生の時期が非常に近いので評価額もほぼ同額であろうと思われる)財産に対して立て続けに課税するというのは、「過剰な再分配」になってしまうのではないか、遺族のこれからの生活に必要な財産をむやみに削ることになってしまいはしないか、という懸念が、ここに生じます。

ここから、このような事例での二次相続時の当該財産に対する課税は、既に相続税を課税済みである財産に対して再び相続税を課す、いわば2重課税のようなものではないか、と見ることもできるわけです。

 この問題の解消の為に相続税法では、一次相続から10年以内に発生した二次相続において、二次相続の被相続人(上記の例で言えばお父様)から相続財産の中に、一次相続の被相続人(同 お母様)から相続又は遺贈で取得した財産がある場合には、当該財産に課せられた一次相続時の相続税額のうち一定の額を、二次相続に係わる相続税額から控除する、という規定が設けられました。

 これが、「相次相続控除」です。

2)控除額の計算

 では、「相次相続控除」の具体的な計算方法はどのようなものになっているのでしょうか。

この規定で控除されることになる税額の計算式は、以下の通りです。

A×C/(B-A)【 >100/100 ∴ 100/100】×D/C×(10-E)/10

 A:二次相続の被相続人が一次相続の際に課せられた相続税額

 B:二次相続の被相続人が一次相続の際に取得した純資産価額

 C:二次相続の相続等により財産を取得した全ての人の純資産価額の合計額

 D:二次相続のその相続人の純資産価額

 E:一次相続から二次相続までの期間(1年未満切り捨て)

 なお、この式のB、C、Dにおける「純資産価額」とは、債務控除後の金額のことを指します。

 算式を眺めても分かりにくいかもしれませんが、実際に数値を入れて試算してみると理解の助けにはなるでしょうし、可能であれば、税務署もしくは税理士などの専門家にご相談いただければと思います。

 最後に注意していただきたいこととして、条文の冒頭が「相続(被相続人からの相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により財産を取得した場合」となっていることをあげさせていただきます。

 つまり、この規定の対象には二次相続の被相続人が一次相続において相続だけでなく遺贈で取得した財産をも含むのですが、それはあくまで、被相続人が「相続人として」取得したものに限られるのです。

言い換えるならば、一次相続の時に相続放棄をして(相続人では無くなって)いた場合には、「相続人として」取得したことには該当しませんから、仮に一次相続時に遺贈により財産を取得していたとしても、それは「相次相続控除」の対象にはならないのです。

 文字で読んでも分かりにくいかもしれないのですが、「相次相続控除」を考える時に外してはいけない大事なポイントですので、書かせていただきました。

 相続と遺贈の違い、相続人の範囲などについては、それだけで何回分かの記事になる話なので、申し訳ありませんがここでは触れないこととさせていただきます。

<2> 外国税額控除

 遺産相続の対象となる被相続人の財産に日本国外に存在するものがあった場合に、相続の発生に関し、その財産の所在国による資産課税が行われることがあります。

 ここで、一度海外で課税されている在外財産に対して、国内でも相続税が課せられるのは、国際間の2重課税に該当するので、そこに税額の調整が必要になるだろうという考えが出てきます。

 その調整内容を定めた規定が、「外国税額控除」になります。

 条文を、確認してみましょう。

<在外財産に対する相続税額の控除>

 相続又は遺贈(中略)によりこの法律の施行地外にある財産を取得した場合において、当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたときは、当該財産を取得した者については、第15条から前条までの規定により算出した金額からその課せられた税額に相当する金額を控除した金額をもって、その納付すべき相続税額とする。ただし、その控除すべき金額が、その者についてこれらの規定により算出した金額に当該財産の価額が当該相続又は遺贈により取得した財産の価額のうち課税価格計算の基礎に算入された部分のうちに占める割合を乗じて算出した金額を超える場合においては、その超える部分の金額については、当該控除をしない。

(相続税法第20条の2)

少々大胆に要約すると、相続等によって取得した国外にある財産に対して課せられた海外の資産税は、日本の相続税の税額から差し引いてよいということが書かれています。

ただし、無制限に控除が出来る訳ではなく、一定の上限は設定されています。

まず当然ですが、払ってもいない税金を差し引くことは出来ないので、ここで控除が出来るのは、在外財産の所在地国に対して払った資産税の税額を超えることはできません。

 また控除の対象となるのは、日本国に対して納付しなければならない相続税額のうち、その在外財産に対して課されている部分だけになります(国内に所在する財産に対しては、外国が資産税を課してはいないですよね)。

 後者は、その者の納付すべき相続税額に、「その者の取得した全財産の課税価格」のうちに「外国の資産税が課せられた在外財産の課税価格」が占める割合を乗じて算出されます。

 実際にはこんな計算になることはほぼありませんが、分かりやすく切りのいい数字で説明するとして、例えば、1億円の財産を相続等により取得したAさん(うち、4,000万円がアメリカに所在する資産)に対し、アメリカで課せられた資産税が100万円、「相似相続控除」の規定まで適用させて計算した日本の相続税は200万円となったとしましょう。

 この時に、アメリカの資産税100万円と比較する日本の相続税額は、200万円ではありません。全財産中の在外財産の評価額比率で案分した、「200万円×4,000万円/1億円 = 80万円」が、正しい金額です。

そして、アメリカ税額100万円と日本税額80万円とを比べると後者の金額が低い為、「外国税額控除」として控除することが出来る金額は、80万円ということになります(払っていない税額が控除されたり還付されたりすることはありません)。

つまり、納付すべき日本の相続税額は200万円から80万円を差し引いた120万円になるのです。

 200万円から100万円を差し引いて100万円になったり、120万円を納付すると同時に(控除できなかったアメリカ税額の)20万円が還付されたりすることは、ありません。

 なお、国内に住所が無くて日本国籍を有しない等、相続税法に規定される制限納税義務者に該当するような者の場合は、そもそも相続税が国内財産にしか課されません。

 つまり、その者が取得した在外財産には、外国の税額が課せられたとしても日本の相続税は課されていませんので、2重課税の問題は生じず、「外国税額控除」の制度適用も行われません。

 全ての在外財産について「外国税額控除」が計算されるわけではないので、ご注意ください。

以上、4回にわたって、相続税法上に規定されている6つの税額控除について説明してきました。

計算規定の話ですし、専門的で分かりにくい部分もあったかもしれません。

ひとまずは、どういうような場合にどういった税額控除があるのか、おおまかなところを認識していただいて、実際に相続が発生した段階では、「確かこういう控除があったのではなかっただろうか」ということを、おぼろげにでも思い出せれば、それでいいかと思います。

実際の適用有無や控除額は、そこから、税務署や税理士等の専門家に、お問合せいただければ、それで大丈夫です。

今回の記事は、概要としてイメージをつかむ為のもの。

そのように、ご認識ください。

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