遺言執行者は何をすればよいか?遺言執行者の選び方や仕事の流れ、報酬など

1.遺言執行者とは

遺言執行者とは何でしょうか?

 遺言執行者とは、遺言の内容を正確に実現させるために必要な手続きなどを行う人の事です。遺言執行者は各相続人の代表として、遺言の内容を実現するため、さまざまな手続きを行う権限を有しています。

実際には、相続財産目録を作成したり、各金融機関での預金解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。

 遺言執行者は基本的に誰がなってもよいのですが、仕事内容や権限には一体どういったものがあるのでしょうか?また、遺言執行者は相続人だけではなく、場合によっては銀行や弁護士、司法書士などがなることも可能です。

 ここでは、遺言執行者がどのような場合に必要で、何をするのか、どのように選べばよいのか?報酬はいくら必要なのか?など、遺言執行者に関する知識を説明します。

目次

 1.遺言執行者とは

 2.遺言執行者の仕事の流れ

 3.遺言執行者の選び方

 4.遺言執行者の報酬など

 5.まとめ

遺言執行者について説明する前に、まずは遺言(いごん)について説明します。

遺言とは、自分の死後に誰へどの財産をあげるかを示したものです。

遺言は、遺言書というかたちで書面にしなければならないことになっています。

遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。

遺言が執行される時には、遺言者は亡くなっていますから、遺言の内容を自らの手で実現させることはできません。

そこで、遺言執行者がいると、遺言者の代わりに遺言の内容を実現させることができるのです。

遺言がある場合は、遺言執行者は必ず選任しなければならないかというと、そういうわけではありません。

遺言執行者が必要な場合と、必要でない場合があります。

1-1.遺言執行者が必要な場合

遺言執行者はどうして必要なのか?

被相続人の残す遺言には、内容によっては相続割合の指定や遺産分割そのものを禁止にしている場合もありますが、基本的には遺言を正確に執行していく必要のあるものがほとんどです。

例えば、遺言で隠し子の認知をするとされていた場合は子供の認知届けを出す必要がありますし、相続人以外の者への遺贈や、不動産を取得する時の相続登記などです。また、遺言を執行してくれる者をあらかじめ決めておく事で、相続人間の「だれが手続きを行うのか?」わからないといったトラブルも未然に防ぐ事ができます。

「認知」「相続人の廃除」の内容が遺言に記載されていた場合に遺言執行者が必要です。もし、この時点で遺言執行者がいないときは、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要があります。

①認知

認知とは、婚姻外で生まれた子を自分の子と認めることです。母からの認知は出生によって母子関係が生じると解されているので、現実には認知は父と子の関係で問題となります。父から認知された子は父の遺産の相続人となることができます。

この認知を遺言で行うこともできますが、認知が遺言で行われた場合は、法律上、遺言執行者が必要で、遺言執行者は認知届を作成し、役所に提出しなければなりません。

②推定相続人の廃除・取消

誰が相続人となるかは法律で定められていますが、相続人から廃除されることもあるので、相続時に法定相続人が必ず相続人となるとは限りません。そこで、相続すると推定される人という意味で推定相続人と呼んでいます。

推定相続人の廃除は、被相続人の生前に推定相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱を行っていた場合等に、その推定相続人の相続権をはく奪する制度です。

廃除は遺言で行うこともできます。遺言に廃除の記述が含まれている場合は、法律上、遺言執行者が必要です。

遺言執行者は家庭裁判所に対して廃除の申立てを行います。

被相続人は廃除の取消しを遺言で行うこともできます。廃除の取消しが遺言に含まれている場合も、法律上、遺言執行者が必要です。

遺言執行者は、家庭裁判所に対して廃除の取消しを申立てます。

1-2.遺言執行者または相続人が執行できるもの

下記の3つに関しては遺言執行者がいない場合は、相続人でもできますが、遺言執行者の指定がある場合は、遺言執行者が執行することになります。この場合、遺言執行者ではない相続人は執行できません。

①遺贈

遺贈とは遺言によって財産を受け渡すことです。

遺贈によって不動産を取得した場合に不動産の所有権移転登記(名義変更)を行うためには、相続人か遺言執行者のいずれかの協力が必要です。

相続人が所有権移転登記に協力しない場合は、遺言執行者の選任が必要になります。

②遺産分割方法の指定

③寄付行為

1-3.遺言執行者が必要でない場合

遺言執行者は、上記1-1.の必要な場合以外の場合は、いなくても構いません。

また、そもそも遺言書がないのであれば、遺言執行者を選任することはできません。

遺言執行者がいない場合は、相続人や受遺者(遺贈によって財産をもらい受ける人)が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。

しかし、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。

また、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。

その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。

遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定すると手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。

1-4.遺言執行者を選任するメリット

遺言で遺言執行者を指定するメリットとしては、遺言執行者は遺言の内容を実現する権限があるので、不動産登記がいつまでも放置されたり、他の相続人による財産の処分、などを抑止する事ができます。

さらに、相続人が複数人いる場合、作成する書類の収集や署名押印手続などが何かと煩雑になりがちですが、遺言執行者を指定していれば、その権限内の一切の行為は相続人に効果が及ぶ形で手続を進められるので、時間短縮にもなります。

2.遺言執行者の仕事の流れ

遺言執行者は具体的にどのような手続きを行うのでしょうか。

遺言執行者として指定された場合、就任から業務完了までの流れは、概ね次のようなかたちになります。

・遺言執行者への就任を承諾

・遺言執行者に就任したことを相続人と受遺者全員に通知

・戸籍等の証明書を収集し、相続人を調査

・相続財産を調査

・財産目録を作成

遺言の内容が財産に関する物の場合は、遺言執行者は財産目録を作成して、すべての相続人と包括受遺者に交付しなければなりません。

包括受遺者とは、受遺者の中でも、包括的な遺贈を受けた人、つまり、目的財産を特定せずに、遺産の全部または割合を指定して行う遺贈を受けた人のことです。

・預貯金の解約の手続きを行う

・売却して分配する財産については換価手続きを行う

遺言執行者は、遺言を執行するに当たって受け取った財産を相続人や受遺者に引き渡さなければなりません。

また、相続人や受遺者のために遺言執行者の名で取得した権利も移転しなければなりません。

・有価証券等の財産の名義変更手続きを行う

・不動産の所有権移転登記を行う

・相続人と受遺者全員に完了報告を行う

遺言執行が終了した後は、遅滞なくその経過と結果を報告しなければなりません。

3.遺言執行者の選び方

3-1.遺言執行者の選任方法

遺言執行者をどのように選任すればよいでしょうか?

遺言執行者の選任方法には、次の3つがあります。

3-1-1.遺言書で遺言執行者を指名する

遺言書で遺言執行者を指定する場合は、「この遺言の執行者に次の者を指定する。」というように記述し、続いて遺言執行者に指定する人の住所と氏名を記述します。

遺言執行者に指定された者は、承諾することも拒絶することも自由ですが、承諾したときは、直ちに任務を行う必要があります。

遺言執行者は就任を拒否することもできるので、請け負ってくれるのかどうか、生前に打診したうえで指定した方がよいでしょう。

また、遺言執行者に指定した人が、遺言者よりも先に亡くなってしまう、あるいは気が変わって遺言執行者への就任を拒否する可能性があることから、別の遺言執行者を予備的に指定することもできます。

予備的に指定された人が遺言執行者になる場合は、遺言執行者に指定された人が既に亡くなる、あるいは就任を拒否した場合のみです。

なお、予備的ではなく、そもそも複数の遺言執行者を指定することもできます。

複数の遺言執行者を指定する場合は、彼らの職務分担についても遺言書で指定することができます。

遺言執行者は遺言書で指定された職務分担に従って遺言を執行します。

職務分担が指定されていない場合は、基本的には遺言執行者の過半数で執行することになりますが、各自単独で執行できると遺言書に定めておくこともできます。

なお、保存行為(時効の中断や家屋の修繕等)については、定めがなくても各自単独で執行できます。

また、遺言執行者はやむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができませんが、遺言に委任してもよい旨の記載があれば、委任しても差し支えありません。

遺言執行者に専門家以外の人を指定する場合は、遺言執行者自身で行うことが難しい手続きもあるので、遺言書に委任してもよい旨を記述しておくとよいでしょう。

3-1-2.遺言書で遺言執行者の選任者を指名する

遺言執行者を遺言書で指定する方法は、遺言執行者が先に亡くなる、あるいは遺言書を作成した時から気が変わって就任を拒否し、遺言執行者がいなくなるリスクがあります。

このようなリスクを避けるために、遺言書では、遺言執行者自体ではなく、遺言執行者の選任者を指定するという方法があります。

3-1-3.家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てる

遺言執行者が指定されていない場合や、辞任、解任、死亡、破産(破産者は遺言執行者になれません)によって、遺言執行者がいなくなった場合は、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立てることができます。

家庭裁判所を介さずに、相続人等が勝手に遺言執行者を選任することはできません。

しかし、申し立ての際に遺言執行者の候補者を家庭裁判所に伝えることができます。

遺言執行者の選任を申立てることができるのは、相続人、受遺者、遺言者の債権者などです。

申立てる先は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

必要な費用は、収入印紙代の800円と、切手代の約2000円(裁判所からの連絡に使用します。金額は裁判所によって多少異なります。)です。

3-2.遺言執行者には誰を選べばよい?

まず、未成年者と破産者は遺言執行者になることはできません。

それ以外の人であれば、基本的には誰でも遺言執行者となることができます。

相続人や受遺者であっても構いません。

しかし、通常、相続人や受遺者は、遺言執行に関する知識がないでしょうから、適切な遺言執行ができない可能性もありますし、どうにかできたとしても大きな負担になるでしょうから、遺言執行者には、遺言執行の専門家を選任することをお勧めします。

専門家と一口に言っても、弁護士、司法書士、税理士、行政書士、信託銀行等の選択肢があります。

遺言の作成から依頼する場合は、遺言の作成を依頼した人に遺言執行も含めて依頼するとよいでしょう。

3-3.遺言執行者をやめさせたい場合

遺言執行者が解任される場合は下記の2通りになります。

利害関係人が家庭裁判所に対して遺言執行者の解任を請求します。

解任が確定した場合、遺言執行者はその地位を失うことになります。

もし遺言執行者が解任されたとしても、代わりの執行者を選任すれば、その者が執行することになります。

3-3-1.遺言執行者が任務を怠ったとき

遺言執行者がその任務に違反した行為をした、または任務を放置して遺言の内容を執行しなかった場合で、遺言の実現を全くしなかった場合のほか、一部の行為しかしなかった場合も含まれます。

・正当な理由なく相続財産目録の交付を怠った場合

・相続人から請求があったのに、事務処理状況の報告を怠った場合

・相続財産の保管、管理につき善管注意義務を怠った場合

・不完全な相続財産の管理をした場合など

3-3-2.解任について正当な事由があるとき

任務の怠慢と同様に、遺言執行者に適切な執行を期待できない場合が該当します。ただし、相続人や受遺者と遺言執行者で対立してしまい、遺言執行者と相続人らとの間で遺言の解釈をめぐって争いがある場合などは解任事由とはなりませんので注意しましょう。

しかし、単純に感情的な対立があるだけではなく、遺言執行者が特定の相続人の利益増を図り、公正な遺言の執行が期待できない事情がある場合は、解任事由に当たります。

4.遺言執行者の報酬など

遺言執行者を相続人などの利害関係者や、友人、知人以外の専門家に頼んだ場合、報酬としていくら支払うことになるでしょうか。

遺言執行者は、遺言執行という仕事を請け負うわけですから、その仕事に対する報酬を請求することができます。

報酬は、遺言の中で定めることができますが、遺言に定めがない場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立て、報酬額を決めてもらいます。

あまりに低廉な金額を遺言書に勝手に記載しても辞任されてしまうでしょうから、遺言執行候補者と事前に報酬をすり合わせたうえで、報酬額を決めましょう。

遺言執行に慣れている専門家の場合は、それぞれ独自の料金テーブルを持っています。

費用や報酬の支払い方は、経費が生じる度に精算しても構いませんが、面倒なので、着手金というかたちであらかじめ想定される経費を渡して遺言執行後に報酬と併せて精算するか、着手金なしで最後に報酬と併せて支払うかたちでも構いません。

遺言執行者が相続人や受遺者に遺産を引渡す際に、費用と報酬を差し引いて引渡すことで清算するやり方が最も手間がないように思われます。

なお、遺言執行者が立て替えて支払った費用は、相続人や受遺者に精算を求めることができますし、支払い前であれば、相続人や受遺者に支払うように求めることができます。

ただし、青天井に費用を使えるわけではありません。

償還を請求できる費用は、遺言執行のために必要と認められる範囲に限られます。

また、必要と認められる費用であっても、相続財産の額を超える費用の請求は認められません。

そして、遺言執行者が自分に過失がないのに遺言執行のために損害を被った場合も、その損害の賠償を、相続人や受遺者に請求することができます。

5.まとめ

以上が、遺言執行者の選任方法と、選任された場合の行動についての説明です。

遺言書は書いて残すことが目的ではありません。遺言書通りに実現をすることができてはじめて遺言書を作成した意味を持つのです。確実な遺言書の実現には、遺言執行者の行動力が非常に重要になります。

遺言書、遺言執行人などについてのお問い合わせがありましたら、当税理士法人まで宜しくお願い致します。

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