平成30年7月に相続法が大幅に改正されました。40年ぶりとなるこの改正では、配偶者居住権が創設されたり、自筆証書遺言目録のパソコンでの作成が可能になったりと、多く変更点があります。
ただ改正される法律の施行時期がバラバラなので、内容を整理して理解するのがちょっと難しいかもしれません。そこでこの記事では、改正相続法の施行時期や具体的な変更内容を5つのポイントに分けて、わかりやすく解説していきます。
人が亡くなった場合に、その人(被相続人)の財産がどのように承継されるかを定めたルールを「相続法」といいます。
「相続法」は、1980年に改正されて以来、大きな見直しがされずにきました。一方でこの40年の間に日本の平均寿命は年を追うごとに延び、高齢化が進むとともに、家庭環境や社会経済活動でも大きな変化がありました。
このような社会経済情勢の変化にこれまでの「相続法」はそぐわなくなり、平成30年7月(2018年7月)に見直しされたのです。
今回の改正で見直された項目と施行日は次のとおりです。
①配偶者居住権の新設
(施行日2020年4月1日)
②婚姻期間が20年以上の夫婦間における居住用不動産の贈与等に関する優遇措置
(施行日2019年7月1日)
③預貯金の払戻し制度の新設
(施行日2019年7月1日)
④自筆証書遺言の方式緩和
(施行日2019年1月13日)
⑤法務局における自筆証書遺言書保管制度の新設
(施行日2020年7月10日)
⑥遺留分制度の見直し
(施行日2019年7月1日)
⑦特別の寄与の制度の新設
(施行日2019年7月1日)
【参考】相続法改正についての情報は、法務省のこちらのページでまとめられていますので、深く知りたい方はお時間あるときにご確認ください。
つづいて改正内容のポイントを解説します。次の5つの項目に分けて順番に解説していくので、興味のある部分をお読みください。
【相続法改正の5ポイント】
1.配偶者居住権
2.遺産分割
3.遺言書
4.遺留分
5.相続人以外の貢献
配偶者居住権の新設は、亡くなった方(被相続人)の死亡によって残された配偶者が、以前と同じ生活の場を維持できるようにするための方策です。今回の改正で、以下の2つの居住権が新設されました。
(1)配偶者居住権とは
(2)配偶者短期居住権とは
では1つずつ解説します。
<相続人と相続財産の例>
相続人 : 配偶者、子ども1人
相続財産 : 自宅 2,000万円
預貯金 3,000万円
この例では、相続人は配偶者と子ども1人の合計2人です。配偶者と子どもの配分は1対1です。この例で、配偶者居住権を使わなかった場合と使った場合の違いを比べてみましょう。
配偶者の相続分: 自宅 2,000万円
銀行預金 500万円
配偶者の相続分:
自宅 2,000万円
銀行預金 500万円
子どもの相続分: 銀行預金 2,500万円
子どもの相続分:
銀行預金 2,500万円
配偶者が住む場所は確保できます。しかし他に受け取れる資産は預金500万円だけです。これからの生活を考えると、配偶者は心細く感じるかもしれませんね。
次に配偶者居住権を行使した場合はどうなるか解説します。
配偶者居住権を行使すると、住宅の「居住権」と「所有権」を分けることができます。「居住権」と「所有権」を分けて相続すると、以下のようになります。
配偶者の相続分: 配偶者居住権 1,000万円※
銀行預金 1,500万円
配偶者の相続分:
配偶者居住権1,000万円※
銀行預金 1,500万円
子どもの相続分: 負担付所有権 1,000万円※
銀行預金 1,500万円
子どもの相続分:
負担付所有権1,000万円※
銀行預金 1,500万円
配偶者居住権を行使することで、残された配偶者が住む場所と生活費の両方を確保することができました。これなら配偶者の相続以後の生活の不安も減るでしょう。負担付所有権とは、所有権ではあるものの、制限のある所有権のことです。
さらに宅地に関する配偶者居住権には、宅地の評価額を減額して相続税を軽減する「小規模宅地等の特例※」が適用できる場合があります。(※小規模宅地等の特例が適用できるのは、一定条件を備えている場合に限ります。小規模宅地等の特例適用をお考えの方はぜひご相談ください。)
配偶者居住権の行使は、子どもにとっても節税のメリットがあります。例えば、父親の相続(一次相続)では相続税がかかりますが、母親が亡くなった場合の二次相続では配偶者居住権は相続税の対象外となります。つまりその分が節税対策になるわけです。
配偶者居住権を行使するためには、登記が必要です。トラブルを避けるために配偶者居住権の取得後は出来るだけ早く登記をしましょう。
配偶者短期居住権は、配偶者が被相続人とともに無償で住んでいた自宅に、相続開始後の6ヶ月程度の短い期間は引き続き居住することを認める権利です。居住可能な期間は、相続の状況より2パターンあります。
自宅が遺産分割の対象でかつ配偶者がこれに関与する場合は、配偶者は最低でも6ヶ月は自宅に居住可能です。居住建物に関する遺産分割協議成立日が6ヶ月より遅い場合には、その成立日まで居住できます。
自宅を第三者へ遺贈した場合および配偶者が相続放棄した場合、配偶者は、自宅の新たな所有者から配偶者短期居住権の消滅請求を受けてから6ヶ月は居住可能です。
「配偶者短期居住権」は、配偶者が被相続人とともに住んでいた自宅に、最低6ヶ月間は継続して住めるようにするものです。被相続人が亡くなってすぐに、配偶者が住む家を失うのを回避するよう配慮した制度と言えます。
配偶者居住権についてはこちらの記事でも詳しく解説しております。合わせてお読みください。
2つめの相続法の改正項目は遺産分割の見直しです。遺産分割の見直しにおいては「婚姻生活が長い夫婦間での自宅贈与の優遇」と「遺産分割前の預貯金の払戻制度」の2つが新設されました。
遺産分割の見直しの1つめは、婚姻期間が長い夫婦間での自宅贈与の優遇です。婚姻期間の長さは結婚してから20年以上経過しているかどうかで判断します。
相続法の改正により、結婚してから20年以上の夫婦において、一方が他方へ自宅(建物または土地)を遺贈または生前に贈与した場合は、遺産の先渡しとして扱わないことになりました。
遺産の先渡しのことを「特別受益」と言いますが、特別受益は相続税の対象となります。見直し前は、被相続人が配偶者のため生前に自宅を贈与していても、遺産分割時に特別受益の相続財産と見なされ、結局は贈与しない場合と同じく課税対象になっていました。
これでは、被相続人が配偶者の生活を守るために贈与しても、意思に反する結果となります。このままでは配偶者が保護できないとして、民法及び家事事件手続法の一部が改正されました。
改正の内容を具体例で見てみましょう。
(具体例)
被相続人と配偶者の住む自宅の評価額は4,000万円
被相続人が生前に配偶者へ自宅の持分2分の1を贈与(2,000万円)
相続人 : 配偶者と子ども1人
相続財産 : 自宅(配偶者の持分は2分の1でその評価額は2,000万円)
その他の財産(6,000万円)
(具体例)
被相続人と配偶者の住む自宅の評価額は4,000万円
被相続人が生前に配偶者へ自宅の持分2分の1を贈与(2,000万円)
相続人 : 配偶者と子ども1人
相続財産 :
自宅(配偶者の持分は2分の1でその評価額は2,000万円)
その他の財産(6,000万円)
改正前は、配偶者が相続できる財産は法定相続分から先渡し分が引かれた3,000万円となります。生前贈与された自宅の持ち分2,000万円分と合計すると、残る財産は5,000万円になります。
もし自宅を生前贈与しなかった場合、配偶者の相続する財産はどうなっていたでしょうか。
改正前、生前贈与しない場合に配偶者が相続する財産は5,000万円になります。
生前贈与してもしなくても配偶者が受け取る財産は同じということです。これでは、故人が配偶者の生活を思って行った生前贈与の意味がないですよね。
(A)家庭裁判所の判断による払戻し
(B)家庭裁判所の判断を経ない払戻し
の2つがあります。
それぞれ見ていきましょう。
上記の書類は一般的な例です。金融機関によって必要とする書類は異なります。詳しくは取引金融機関に問い合わせましょう。
相続法の改正項目の3つめは遺言書の見直しです。遺言書には、大きく分けて公証役場で作成する「公正証書遺言」と自分で書いて作成する「自筆証書遺言」があります。このうち、今回の見直しの対象は自筆証書遺言です。
「自筆」とあるように、以前は遺言書は全て手書きで作成しなければなりませんでした。
今回の見直しにより、遺言書のうちで財産目録については、パソコンなどを使って作成しても良いこととなりました。ただし、この場合は財産目録の各頁に署名押印が必要です。
相続法4つめの改正項目は遺留分制度に関する見直しです。改正前は、遺留分を侵害された法定相続人は「遺留分減殺請求権」を行使して、相続財産に対する侵害額相当の返還請求ができました。相続財産としては不動産や動産などがありますが、これらの所有権について侵害額相当を、法定相続人は返還請求できたのです。このため、相続財産について共有関係が生じ、権利関係が複雑になっていました。
ちなみに遺留分とは、配偶者・子(子の代襲相続人を含む)・父母など一定範囲の法定相続人に認められた一定割合の相続財産のことです。
2018年の法改正では、以前の「遺留分減殺請求権」は「遺留分侵害額の請求権」として金銭債権となりました。改正により、法定相続人が請求できるのは「侵害額に相当する金銭」と定められました。請求できるのが金銭になった結果、相続財産に共有関係が生じるのを回避できるようになったのです。
見直しされた遺留分制度が役立つ事例を紹介します。
例えば、遺言書に「A不動産を特定の人に譲る」と書いてあった場合は、まず故人の意思が尊重されます。しかし改正前の状況で遺留分減殺請求権が行使されると、相続財産であるA不動産の遺贈を受けた人と、遺留分減殺請求した法定相続人との共有状態になる可能性がありました。
もしこのA不動産が故人の経営する会社の家屋で、会社の事業承継者へ受け渡そうとしていた場合は、遺留分権利者との共有状態は事業承継の支障になりかねません。このような共有状態を避けるべく、遺留分侵害額は相当する金銭での請求権へ見直されたのです。
ただ遺留分侵害額に相当する金銭での請求となると、遺贈を受けた側が請求額を用意できない可能性もあります。そこで遺贈などを受けた人が金銭での支払いができない場合は、裁判所に請求して金銭債務の全部または一部の支払い期限を猶予できるようにもなりました。
遺留分侵害額を請求したい場合は、請求権に時効があるので注意しなくてはなりません。相続開始および遺留分の侵害を知った日から1年、相続の開始を知らなかった場合でも相続の開始から10年を過ぎると、遺留分侵害の請求権は時効で消滅します。
ちなみに遺留分の割合は法律で以下のように定められています。
・遺留分権利者が亡くなった方の父母のみの場合は相続財産の3分の1
・遺留分権利者が亡くなった方の父母以外の場合は相続財産の2分の1
遺留分権利者が実際に相続できるのは、各自の法定相続分までとなります。
これまでは、例えば被相続人の長男の妻が義理の父親である被相続人を長年にわたり介護してきた場合でも、長男の妻は遺産を受け取ることはできませんでした。長男の妻は相続人ではないからです。
新設された「特別の寄与」制度では、相続人以外の親族が、被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで相続人に対して金銭の請求ができるようになりました。
遺産分割手続きが過度に複雑化しないよう、遺産分割自体はこれまでどおり相続人で行います。しかし特別の寄与の制度により、被相続人に貢献した親族は相続人に対して金銭を請求できるようになったのです。
2018年(平成30年)7月に改正された相続法の改正ポイント5項目について、詳しく解説しました。この改正では、相続法の一部が、時代の移り変わりに沿うよう見直されました。
遺言書に関する見直しもありますが、特に大きな変化は、被相続人と生計をともにしていた配偶者や介護に従事した親族の保護です。
被相続人が亡くなった後で配偶者が生活に困らないよう、高齢化社会で増え続ける家庭内介護に貢献した親族の労力に報いるよう、法律が寄り添った改正と言えるかも知れません。
この記事は2020年5月時点の事例をご紹介しております。個別の事情や状況の変化によりご紹介した手続き・必要書類は異なる場合がありますので、ご自身で手続きされる際には、改めて各関係機関等でご確認ください。
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