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中小企業の事業承継 民事信託利用

中小企業の事業承継解説シリーズ第10回です。今回お届けするのは、中小企業の事業承継で民事信託を活用するときの注意点です。信託活用による事業承継のポイントは、第8回第9回記事でも解説していますので、ぜひ合わせてお読みください。

1.民事信託活用時の3つの注意点

民事信託を使うときは、以下の3点に注意しましょう。

・後継ぎ遺贈型受益者連続信託の設定
・遺留分
・事業承継税制との併用

順番に解説します。

2.後継ぎ遺贈型受益者連続信託の解説

事業承継に信託を使う場合には「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」というものを設定できます。では、後継ぎ遺贈型受益者連続信を設定できるとどんな利点があるのでしょうか。

2-1.後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは

後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは、信託受益者の死亡により、信託受益権が指定した順番で次の受益者に承継される信託のことです。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、設定時に以下のようなことを定められます。

・現経営者の配偶者を受益者に指定して後継者とする
・同時に配偶者が死亡した場合は長男が信託受益権を承継する
・長男が死亡した場合には次男が信託受益権を承継する

このように、委託者から見て、自分から数代後の後継者まで自分の意思で指定できる利点を持つのが「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」です。

2-2.後継ぎ遺贈型受益者連続信託のメリット

くり返しになりますが、複数代に渡る承継をコントロールできることが、後継ぎ遺贈型受益者連続信託のメリットです。

遺言を使った相続など他の承継方法では自分の次の後継者までしか指定できません。

2-3.受益者の指定が自由

後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、自由に受益者を指定できます。信託設定時にまだこの世にいない人を指定することも可能です。

たとえば、信託設定時にまだ産まれていない孫を第二次/第三次の受益者に定める、といったことが可能なのです。

2-4.承継回数に制限なし

さらに連続承継回数にも制限はありません。つまり受益者を何代先まで指定しても良いのです。

2-5.後継ぎ遺贈型受益者連続信託の注意点

つづいて後継ぎ遺贈型受益者連続信託の注意点です。

受益者を何代先まで指定しても構わないのですが、指定できる期間には制限があります。

後継ぎ遺贈型受益者連続信託の有効期限について、法律では以下のように定めています。

受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例」として、「受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定め(受益者の死亡により順次他の者が受益権を取得する旨の定めを含む。)のある信託は、当該信託がされた時から三十年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって当該受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでの間、その効力を有する。

出典引用:信託法第91条

以下に上記信託法第91条の要点をまとめます。

・設定から30年経過後は、次の受益権継承者が死亡した時点で効果は消える
・受益権が消滅したら無効になる

信託設定時に順番で受益者をたくさん指定しても、その効果は永遠ではないということです。

ただ、こうした期間の制限があるにしても、後継者を何代にも渡って指定できる後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、メリットを持っています。

2-6.後継ぎ遺贈型受益者連続信託のデメリット

ただし後継ぎ遺贈型受益者連続信託にはデメリットもあります。

たとえば、受益者が承継されるごとに、相続税が課税されます。税務的には非効率で、大きなデメリットと言えます。

3.遺留分への配慮

後継ぎ遺贈型受益者連続信託では、遺留分への配慮を忘れてはなりません。

相続により信託受益権が承継される場合は、新規受益者以外の法定相続人の遺留分に気を配る必要があります。

3-1.遺留分とは

遺留分とは、兄弟姉妹(及び甥と姪)以外の法定相続人に保障されている相続財産の最低限度の取り分のことです。民法第1042条第1項第1号で規定されています。

遺留分は法定相続人の生活を守るための取り決めです。後継ぎ遺贈型受益者連続信託での事業承継の場合も、全ての自社株式を指定の受益者が相続することで法定相続人の遺留分が侵害されるなら、法定相続人は遺留分の請求ができます。

受益者が遺留分を請求されたら、相手に渡さなければなりません。

もし遺留分のトラブルを避けたいなら、相続前に法定相続人の合意を得る必要があります。

法定相続人に納得してもらうための対策としては、以下のことがあります。

・相続発生前に法定相続人である配偶者や子どもたちを集めて会議を開く
・会議で現経営者の意思を伝える
・自社株式を全て後継者に相続させる意図を伝える

納得が得られた場合は、相続発生前に遺留分放棄の手続きをしてもらえると、より安心です。

3-2.遺留分の支払い

遺留分は現預金で支払うと規定されていますが、合意があれば金銭以外の財産による支払いも可能です。

3-3.遺留分に対する課税

遺留分を金銭以外の財産で支払うと、税務上は金銭で支払うべき債務を、金銭以外の財産で返済する代物弁済をしたことになります。

代物弁済すると、税務上は「財産を遺留分相当額で売却した」と見なされます。財産の取得価格と売却額の差額によっては、譲渡所得税が課税される可能性があることを理解しておきましょう。

4.民事信託と事業承継税制の併用は不可

民事信託と事業承継税制を併用できれば、事業承継に必要な以下のことが円滑に進められます。

・所有と経営の分離
・経営権の移行
・納税猶予

しかし現行制度では、民事信託で贈与や相続された信託受益権に対して事業承継税制を使えません。

4-1.事業承継税制と民事信託が併用できない理由

事業承継税制と民事信託は併用できませんが、2つが併用できない理由は簡単です。事業承継税制の対象に民事信託が含まれていないからです。

第5回で解説していますが、事業承継税制を利用するなら、次の状態であることが必須です。

・前経営者と後継者が同族グループである
・合計で50%以上の持ち株比率がある
・筆頭株主である

つまり事業承継税制では、会社経営の実権が集中していることを求めます。それ以外の状況は想定されていないのです。

なぜ民事信託が事業承継税制の規定を満たさないのか、信託の種類ごとに見てみましょう。

4-1-1.自己信託は事業承継税制の要件を満たさない

2種類ある民事信託のうち、自己信託における状況を見てみます。

自己信託で、受益者が引き継ぐのは信託受益権です。議決権は引き継がれません。議決権は、株式の名義人である受託者が所有したままになります。

つまり、自己信託では先代経営者が議決権を行使します。会社経営の実権は集中していないので、事業承継税制の要件を満たしていません。

4-1-2.自益信託も事業承継税制の要件を満たさない

つづいてもう1つの民事信託、自益信託を見てみます。

自益信託では、信託の受託者が後継者です。しかし、自益信託で指図権が設定されている場合は、最終的な実権が受託者にあるとは言い切れません。実際に議決権を行使するのが誰であるかを証明するのは難しいです。

4-2.事業承継税制・今後の展望

一般社団法人信託協会は、『平成31年度の税制改正に関する要望』にて、
株式の信託を利用した事業承継について、事業承継税制の適用対象とするよう求めています。詳しくは、一般社団法人信託協会の『平成31年度の税制改正に関する要望』をご参照ください。

今後議論が重ねられれば、併用が承認されることもあるでしょう。しかし現時点では民事信託と事業承継税制の併用はできません。

自社の事業承継においてどの方法を使うのがベストであるかは、個々の事情で変わります。

要点は以下です。

・事業承継税制と信託のどちらが有利か?
・暦年贈与で少しずつ株式を移動していくか?

ポイントを整理し、できれば専門家にも相談してから、御社の事情に合う方法を選ぶようにしてください。

5.事業承継の民事信託のまとめ

ここまでお読みいただきありがとうございます。さいごに事業承継対策の民事信託についてまとめます。

5-1.民事信託の種類

民事信託の種類とポイントです。

民事信託の種類

(1)事業承継対策の民事信託では民事信託が活用できる
(2)事業承継に使う民事信託は自己信託と自益信託の2種類
(3)自己信託と自益信託とでは課税が変わる
(4)自己信託と自益信託はメリットとデメリットがある

事業承継に民事信託を活用するなら、まず主目的を決め、それから自己信託と自益信託、どちらか適切な方を選びましょう。

5-2.民事信託で事前に検討すること

信託の設定には以下のような事前に検討すべきことがあります。

・後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用するかどうか
・信託受益権を得ると法定相続人の遺留分侵害の可能性がある

5-3.民事信託か事業承継税制か選択する

事業承継で民事信託と事業承継税制の併用はできません。

5-4.民事信託では課税される

民事信託を利用すると、贈与や相続が発生した場合には、納税が必要です。

5-5.民事信託利用前に専門家に相談する

民事信託は、事業承継における万能の解決策でありません。事業承継で信託を活用するなら、事前に専門家に相談してメリットとデメリットを整理し、自分に必要な方法をしっかりと理解しましょう。

・自分が何を重要視しているか
・会社をどのようにしていくか

こうした要点を明確にし、最善の方法を選んでください。


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